スタッフブログコンサート
柴田元幸&トウヤマタケオ 「朗読とピアノの夕べ」を開催しました。
更新日:2015年6月27日(土)
なかた美術館では、昨日久しぶりに夜間開館のスペシャルイベントを行いました。
かねてよりtwitterなどでお知らせしており、多くの方が楽しみにしてくださっていた
柴田元幸&トウヤマタケオ「朗読とピアノの夕べ」です!
今回、企画してくださったのはignition galleryの熊谷充紘さん。
柴田さんが責任編集を務める文芸誌「MONKEY vol.6」の刊行を記念した、朗読ツアーのなかの尾道公演でした。
おかげさまで定員を超えるご参加をいただき、大盛況となりました。
本とお菓子の販売で、「ホホホ座 尾道店」さんも出店してくれました!
MONKEYの最新号はもちろん、バックナンバーや、海外文学を中心にした、古書もずらり。
そしてこの日のため、なんと本と猿のかたちのクッキーを焼いて持ってきてくれました!
これがまた可愛いのです・・・!
そして、張りつめた緊張感と大きな期待のなか、公演がはじまります。
まずトウヤマさんのピアノが響きます。
すっくと立った柴田さんが、大きな声で朗々と語る最初の物語は、MONKEY vol.6からのクールな一篇、
スチュアート・ダイベックの「ヒア・カムズ・ザ・サン」でした。
その声は力強く、お腹の底から響いて来て、確かな言葉で、聞く人をぐいぐい物語のなかに引き込みます。
そしてトウヤマさんの演奏が、物語を包み込むように柔らかく、
あるいは突き放すように淡々と、絶妙なバランスで並走します。
その後は、ギリシャ神話になぞらえて一人のヴァイオリン弾きを描いた、
切なくて恐ろしいパトリック・マグラアの「オマリーとシュウォーツ」、
MONKEYvol.6では「奇妙な店」が掲載されているウォルター・デ・ラ・メアの、
しずかな恐怖を描いた「謎」。
第二部では、世界と自分とのズレを切実に描いたブライアン・エヴンソンの「ウインドアイ」、
最後は、アイザック・シンガーの「靴紐に寄せる惜別の辞」が高らかに謳いあげられました。
物語に、声と音楽がふきこまれることで、次々と立ち現われてくるイメージ。
その鮮やかさ、強さたるや!
まるで物語そのものが、いま柴田さんの姿をして目の前にいるような感覚。
その肉声に、全身を打たれるような体験は、もはや手に負えないくらいに圧倒的でした。
あいだにはさんだ質疑応答では、朗読の緊張感とはうってかわって、
柴田さんが実に気さくに色々と答えてくださいました。
作家は、自分で自分の本がおもしろいよ!とは言いにくいけれど、
翻訳者は、自分が翻訳した本をおもしろいよ!と言えるし、言うべき立場だと思う、という言葉に納得したり、
“この物語は、こう読まれたがっている”という物語の意思のようなものに基づいて読む。という言葉に、作品に対する理解や愛の深さを思ったり・・・。
実は文学より音楽が、もっと早くから自分の深いところにしみ込んでいると語る柴田さんにとって、
今回のMONKEYのような音楽をテーマとした特集は念願だったとのこと。
(その刊行記念の朗読会を開催することができて、本当に光栄です・・・!)
ちょっと冗談を飛ばしたり、照れくさそうな笑顔を見せる柴田さんも印象的でした。
美術館は、たとえば100年前の人間が描いた絵を、目の前に見ることができる場です。
そうした場で、柴田さんが異なる国や時代の物語を、翻訳して、さらに朗読して、わたしたちに届けてくれるということ、
またトウヤマさんの演奏が、やはり未知のもの、目に見えないものをすくいあげて、それを聞くことができる、というしあわせ。
そして、集まったみなさんがそれぞれに、その全てをしかと受け止めてくださっているという実感があり、
なんだか胸がいっぱいになってしまったのでした。
また、今回はおひとりでお越し下さった方が多かったこと、初めて当館に来て下さった方が多かったことも嬉しかったです。
お二人のファンが多いのはもちろん、本というもの、文学を楽しめる場を求めている方が、こんなにたくさんいるんだなというのも感じました。
ご来場いただいた皆様、お手伝いしてくださった皆様と、一緒に素晴らしい時間を共有することができて、本当にうれしく思います。
どうもありがとうございました!!