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「アーティスト・ミーティング」 ー静かな物そして、見えない絵画 ー vol.4
更新日:2014年9月3日(水)
さて、早一ヶ月が経ちましたが、アーティスト・ミーティング報告の続きです。
トークは休憩をはさんで、引き続き第4展示室へと進みます。
ここでは稲川 豊さんが、空間を思い切り使って作品を展開しています。
稲川さんは現在は尾道在住ですが、長らくロンドンを拠点に活動していました。
そこで西洋と日本の文化の違いを目の当たりにし、また改めて自分のルーツである日本のカルチャーシーンを見つめたときに、強い違和感や特異性を感じたと言います。
例えばクリスマスや教会での結婚式といった宗教的な行事や、人種的なアイデンティティに関わるような目の色や髪色を簡単に変えてしまう行為も、日本ではイベント的なもの、気軽なファッションとして受け入れられていたり、そもそも西洋由来の油絵に対して、日本画というジャンルを作ってしまった美術の歴史も然り。
最近よく「ガラパゴス」と喩えられたりしますが、外来の文化をしばしば憧れを持って取り込み、それを全く独自に解釈して楽しむ日本の様子は、ある意味でグロテスクなようで、非常に面白いものでもあり、そして切り離すことのできない自分のバックグラウンドでもあると稲川さんは言います。
そして稲川さんは、作品とは自分も含め、作り手となる人が背負っている文化の窓だと考えています。
自分とつながりのある友人知人や、身の回りの物たちを写真に撮って、コンピューター上で合成してイメージを作り、さらにそれをキャンバスに油絵の具で描く、という稲川さんの制作方法は、あらゆる文化を変形・合体させ、ねじれて、まぜこぜになった日本の文化の縮図になっているのです。
今回、稲川さんの展示は2013年と2014年の新作ばかりです。
キャンバスと白木や布など、異素材を組み合わせたミクストメディアの作品や、アトリエで生まれた下絵、展示する作業の中で派生した形など、「作品」にならなかった側のものを組みあわせたインスタレーションなど、絵画というフォーマットに留まらない、新しい展開を見ることができます。
稲川さんはひとつ例え話をしてくれました。
鉛筆デッサンをして、2時間かけて色が変わった紙と、けずれて形を変えた消しゴムがあったとき、仮に「絵」という概念がない文化の人から見たら、消しゴムのほうが成果物のように見えるかもしれないと。
本来、限りなくある選択肢の中で、何を選び、作品として提示するか、その判断に自覚的であるべきだと気づかされます。
また、作者の思い通りのものだけを詰め込んで、窮屈な作品にしたくないとも語っておられました。
偶然や意図しないものも取り込んでいるのはそのためです。
作品や絵について、そしてその拠り所となる文化など、自明になってしまっている事ひとつひとつを、徹底して見つめ直し、検証していく稲川さんの姿勢が伺えます。その制作量、思考の密度に圧倒されたトークでした。
そして第2部は、車座トークです。
一般の方はもちろん、尾道市立大学や福山大学、はるばる東京からも大学生が参加してくれています。
聞き手の阿部さんからは、4組の作家に通底しているキーワードのひとつとして、「見えなさ」を挙げてくれました。
その「見えなさ」の訳語として、未見のものや、気づいていないもの、目をそむけていること、見失っているもの、などなど、あらゆる見えなさがあるはずで、それらを見ようとすること、あるいは見えないということを確かめることが、視覚表現に携わる動機のひとつなのではないかとのことでした。
ものを見るとき、もう一方で盲点は必ずあって、どれだけ多くのものを見ても、見えないものはなくなることがありません。
その尽きなさが、人を惹きつけたり、考えさせたり、求めさせたりしてしまうのでしょうね。
また見えなさの話から、写真を撮るときに必ずつきまとうフレーミングの問題、近代絵画とのつながりや断絶、それぞれが乗り越えようとしているものなどに話は展開していきます。
私たちのほとんどは、視覚に大きく依存して生きています。
それはとても不確かであいまいで、しかし、そのあいまいさこそが、人間の目が持つ優れた機能なのかなと思ったりします。
また「見えない彫刻」に対しても、さまざまな方が発言や質問をしてくださって、やっぱり非常に身近な存在だと感じました。
この日は結局、話が尽きることもまとまることもなく・・・、名残惜しいながらも17:30でタイムアウトとさせていただきました。
たくさんの方にお越し頂いて、たいへん貴重な時間になったと思います。
個人的にも、まだまだ考え足りなかったり、お聞きしたいことが山積みなのですが、これにて4回にわけた報告も一旦〆させていただきます。
どうもありがとうございました!
(上から2枚目、3枚目:photo by Motohiro Ozaki)